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住宅ローンを利用するときに最大限活用したいのは「親からの資金援助」です。購入時の頭金にも活用できますが、今回は毎年の繰り上げ返済に活用する方法を解説します。これは将来の相続税対策にもなる有効な方法です。
相続税と税率と適用条件をおさらい
相続税
税率
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 55% | 7,200万円 |
計算方法
課税遺産総額 = 課税価格の合計額-基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)
解説
相続税は親や祖父母が死亡したときに相続人の権利があると発生する税金です。法定相続人に関する説明はここでは避けますが、夫が死亡した場合に奥さんと子供が2人いた場合には法定相続人は3人になります。
例
夫・妻・長女・長男
夫の遺産額が1億4,800万円だとした場合の課税遺産総額
1億4,800万円 -( 3,000万円 + 600万円 × 3人 ) = 1億円
法定相続分
妻 1/2
長女 1/4
長男 1/4
相続税
妻 5,000万円 × 20% - 200万円(控除額) = 800万円
長女 2,500万円 × 15% - 50万円(控除額) = 325万円
長男 2,500万円 × 15% - 50万円(控除額) = 325万円
この場合、3人で1450万円もの相続税を支払うことになります。
「えっ、でも1億4,800万円も財産あるのお金持ちだけでしょ?」
と思ってしまうところが相続税の怖いところです。都内に一戸建てを持っていたら、それだけで7000万円~8000万円の資産になってしまいますし、生命保険が支払われればそれも相続財産です。現金や株式も、ゴルフ券まですべて合算したのが相続財産なのです。
つまり「現金や預金がなくても相続財産がかなり多い」「亡くなってから初めてそのことを知った。」という方も少なくないのです。しかも、相続税は10カ月以内に現金で支払わなければならないため、ギリギリで土地や建物を売却しなければならず、安く買いたたかれるケースも多いのです。相続税で怖いのはこの部分です。
上記の家族構成の場合は4800万円が基礎控除額ですので、これを超えた場合には相続税が発生するのです。
将来払う相続税を減らすためには生前に贈与すれば良い
生前に親から子供へ財産を移し替えておけば、亡くなった時の遺産額が減るので上記の相続税が発生しない、もしくは減ることになります。
現金や預金、土地や建物、株式や有価証券を含めた遺産総額が「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の人数」を超える場合には、生前にどんどん子供や孫に贈与をして財産を減らしておくべきなのです。
子供や孫からすれば「将来相続税を多く支払いたくないから早めに財産を移してほしい。」とお願いするべきなのです。
しかし、普通に贈与をすると贈与税が発生します。
贈与税の税率
基礎控除後の課税価格 | 税 率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | ‐ |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
「結局ここでも税金が発生するなら意味ないのでは?」と感じてしまうぐらい、高い税率なのは間違えありません。相続税と比較してみると相続税よりも高いのです。
しかし、生前贈与には非課税枠というものがあります。
1年間で110万円以下の贈与の場合は贈与税が発生しない。
というものです。
極端なことを言えば、毎年110万円を20年間贈与し続けても税金は発生しないのです。(ただし、110万円と同じ額を契約書なしに贈与し続けると一括贈与とみなされることがあります。回避方法は後述します。)
今回の住宅ローンの繰上返済の活用はこの110万円の非課税枠を使うのです。
贈与の非課税枠を活用した相続税対策と住宅ローンの繰上返済活用法
方法
- 住宅ローンを組んでいる相続人が親や祖父母から毎年110万円の贈与を受ける
- 贈与された110万円を住宅ローンの繰上返済に充てる
結果
将来の相続税が減る
住宅ローンの総返済額が減る
まさに一石二鳥の方法なのです。
ケーススタディ
夫・妻・長男
- 長男が住宅ローンで3000万円の住宅を購入。(金利1.0%・35年ローン)
- 夫の資産額1億1200万円
- 毎年100万円を20年間生前贈与
何もしない場合
相続税
1億1200万円 - ( 3000万円 × 2人 × 600万円 ) = 7000万円
妻:3500万円 × 20% - 200万円(控除額) = 500万円
長男:3500万円 × 20% - 200万円(控除額) = 500万円
妻と長男が1000万円の相続税を支払うことになります。
住宅ローン返済 長男の返済負担
元金:30,000,000円 + 利息 5,567,795円 = 総返済額 35,567,795円
返済期間:35年
毎年100万円を20年間生前贈与した場合
相続税
※2000万円の贈与をしたので遺産額が1億1200万円から9200万円に減ります。
9200万円 - ( 3000万円 × 2人 × 600万円 ) = 5000万円
妻:2500万円 × 15% - 50万円(控除額) = 325万円
長男:2500万円 × 15% - 50万円(控除額) = 325万円
妻と長男が650万円の相続税を支払うことになります。
→ 350万円の減税効果
住宅ローン返済 長男の返済負担
元金:30,000,000円 + 利息 2,719,759円 = 総返済額 32,719,759円
返済期間:17年3か月
→ 2,848,036円の繰り上げ返済効果
合計で「約635万円ものお得」になるのです。
- 親や祖父母にとって → 子供や孫に相続税の負担をさせずに遺産を譲渡できるメリット
- 子や孫にとって → 相続税負担の軽減、繰り上げ返済による返済利息の軽減
という一石三鳥の方法なのです。お得になった分は、生前贈与に協力してくれた親や祖父母への親孝行にお金を使えば、よりみんながハッピーになれる方法と言えます。
住宅ローンをこれから借りる方も、現在返済中の方も、検討すべき方法と言えます。
まずは、「親の相続財産がいくらで、相続税が発生する可能性があるのかないのか?」から聞いてみると良いでしょう。相続税が発生するのであれば、上記の方法は有効になります。
贈与税の非課税枠を利用するときの注意点
連年贈与をしない
連年贈与とはずっと同じ金額を毎年贈与していくことを言います。前述の例のように100万円を20年間贈与した場合には、連年贈与とみなされてしまい、「2000万円の贈与」となり贈与税が発生してしまうのです。
1年目:105万円
2年目:95万円
3年目:100万円
・・・
と毎年贈与額は微調整する必要があるのです。少しだけ110万円より多く贈与して税金を少額支払うなどの方法も有効です。
贈与契約書を作る
税務署に贈与を否認されないためには、贈与契約書を作成する必要があります。贈与した人が贈与された人の預金通帳を管理していた場合などは名義が違くても、贈与と認められないケースがあるからです。
誰から、誰に、いくら贈与したのか?いつ贈与したのか?を書面にして、お互い押印の上、保管しておきましょう。毎年行うことになります。
税理士に相談
上記の対応が不安な方は税理士や会計士に相談しましょう。
まとめ
住宅ローンの贈与の非課税枠の活用というのは、住宅ローン返済では非常に有効な方法です。
住宅ローンには「住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置」という別の贈与非課税措置もありますが、こちらは限度額があり、住宅購入時に一括で利用する制度です。
どちらも併用できますので、贈与すべき金額が大きい方は併用することをおすすめします。
贈与する側も、贈与される側も、得する方法ですので、家族会議でぜひ検討してみましょう。